遠野遥『破局』

理由がひとつ見つかったらそれ以上ウジウジしないところなんかも、訓練によってなにかが欠落してしまった敵兵を見るようで怖い。

付き合う女性に対して、決して尊厳を傷つけないように、きちんと距離を取り、相手が嫌がることを先回りして決してしないようにしているような、「素晴らしい人」なのに、ふとした瞬間にその力で握りつぶしてしまいそうな危うさがある。人権に理解があり、新しい平等を完全に把握しているようでいて、持て余した筋力によって、いつの間にか弱いものをぐちゃぐちゃにしているような。

前作で、人間が尊厳(が最初からあること)に気づく瞬間を鮮やかに描くようなシーンがあったが、破局の場合は自身が人間の尊厳に気をつかいながら、その尊厳を簡単にこわせてしまう加害者になってしまうことの外れ調子な寂しさを感じる。その極端さは、カタルシスにつながるのだが。

「安全ピン」が、被害者が痴漢から身を守るための道具であることから、自己防衛のシンボルとだとも捉えられる。妄想が膨らみ続け、最後にパチンと針でさされたような話だった。

破局…も、タイトルとしてバシッとはまっているかというと、何か他のタイトルもあるような気がするけど(それは前作対談でも指摘されていたような)、キャッチ―さから外れていく面白さのほうを読んでいきたいようにも思う。

文藝 2020年夏季号

http://learning.kintominami.com/books/bookindex/20200519_b.html